カオルの不定期日記



旅詩人 2009年05月22日(金)

  2002 5/21 ( thu ) 12:30pm
とても気持ちよく晴れている。風もよし。
船出をするには絶好の天気だ。

5月13日に旅に出た。

なにか特別な理由があったわけじゃない。
忙しくて疲れていてふと「旅に出よう」と想い
翌日の早朝にリュックひとつででかけた。

携帯電話やパソコンやデジカメは持って行かなかった。
ノートとタオルとペンとスケッチブック。
Tシャツを1枚。
宿も目的地も決めていなかったけど
「変わらない場所」を探したくなった。
その象徴が「スマートボールの店」だ。

まずちいさな温泉町に行った。
駅前で「旅館案内所」みたいなところにいった。
「あの。宿探してるんですけど。
 1万円は出せません。食事は付いてると助かります。
 これはゴールデンウイークの終わった直後とはいえ
 無謀なお願いだとはわかっているのですが」
そしたら担当のおじさんがあっさりと
「3軒ぐらいあるけど休みかもしれないから連絡してみる」
2軒がゴールデンウイークのあとの休日だったけど
1軒が空いていた。加水なしの源泉温泉と2食付き。
言ってみるもんだ。

本日の予定をソバでも喰いながら考えようと
「店内全席喫煙オッケー」のそば屋を見つけてもりそばを頼んだ。
食べ終わってタバコを吸いながらほうじ茶を飲み「さてさて」と
旅館案内所でもらった地図をみたり
財布と相談しながらプランを練っていた。
隣の席に60歳過ぎぐらいのおじさま6名が座った。
メニューを見ながら「これも美味そうだ」とか談笑していた。
するとリーダー格風のおじさまが突然店員を呼び
「全員親子丼」と言った。他のおじさまは黙っていた。
その時点でオレは少々いらついていた。

リーダー格のおじさんが別のおじさんBに語り出した。
「まったくこういう場所でタバコを吸うなんて
 すごく無神経だと想わないか。常識ってモノを知らないね。
 タバコの煙りが嫌いなヒトの気持ちを理解していないね。
 な。まったく失敬だ。そう思わないか」
おじさんBは「曖昧な微笑みと曖昧な同意の典型」のようなカンジ。

オレはリーダーに言った。
「なあ。そのタバコがどーたらってオレに言ってのんか?」
「特にキミに対してではないが食事が済んだのなら帰ってくれ」
「ちょっと待て。あのな。この店はすべてのテーブルに灰皿がある。
 しかも店内はガラガラだ。アナタ達が来店していた時に
 オレはすでにタバコを吸っていたよ。
 もっと離れた席に座ればよかったんじゃないか?
 オレだって食事をしている時に他人の煙りはすきじゃない。
 そんな嫌みみたいな言い方をしないで
 オレに直接『自分はタバコの煙りが嫌いで肺病でもある。
 もしよかったらわたしたちの食事が来たらご遠慮願いたい』とかならさ。
 別の席に移動するなり帰るなりするよ」
「あんたみたいな無神経な人間と議論する気はない。
 だいたい現代ではタバコなんかみんな吸ってないよ」
ここでオレは完全に切れた。
「わたしはタバコが嫌いだから近くで吸って欲しくない」はわかる。
でも「世間ではみんな吸ってないから」という
「虎の威を借りるカンジの発言」は大嫌いだ。
サービスエリアの薄いコーヒーより嫌いだ。

オレはテーブルをまたいでリーダーの顔面30cmの所まで行った。
もちろんくわえ煙草で。
「あのよ。人にモノを頼むときは帰ってくださいだろ?
 そんでよ。世間では男性の約50%女性の約30%が喫煙者だ。
 みんな吸ってないとは言い過ぎじゃないのか?
 まああんたを恐れてあんたの前では吸わないヒトがいるかもしれないから
 あんたにとっての世間はみんな吸わないかもしれないけどよ」
副流煙モクモク。
おじさんDが「あなたまだ若いんだからやめなさいよ」と
訳のわからないか仲裁のコトバを。
「あ”!? 意味わかんねー。オレ45」
リーダーが言う。
「じゃあお帰りくださいと言えばいいんですね」

オレは店の外の前のベンチに座ってタバコを吸った。
イライラしているが同時に「自分の修羅場の経験値の低さ」を思い知る。
「そうか。ああいう場合。銀次さんだったら。
 きっともっとうまくやったろう」
たぶんこんなカンジで。

銀次「わかりやした。御説ごもっとも。
   ではわたくしはすたこらさっさと退散いたしやすので
   この伝票をよろしくってことで。それでは失礼。どろん」

たしかにオレはまだ若いのかもしれない。

まず旅館にチェックインした。
宿の主人と談笑してると今日の泊まり客はオレだけらしい。
さらに主人の出身地が「九州の天草」で
ミチコママも熊本や天草の出身だ。
「奇遇ですな。オレもガキの頃に天草にいましたよ。(10時間ぐらい)
 いいところですよね。夜は真っ暗。テングサのトコロテンが
 べらぼうに美味い」とか適当マシーンで盛り上がっていると
なぜか宿代を「少しおまけしますよ。同郷のよしみで」となった。
言ってみるもんだ。

必然的に露天風呂も家族風呂も大浴場も「カオル貸し切り状態」なので
夕食の時間までにすべての風呂でのぼせて来た。
主人が食事の用意をしながら「ゴールデンウイーク中は1泊3万なんですよ。
部屋は7部屋しかないんですけど布団の上げ下ろしとか大変で
いまは中居さんたちには休んでもらってボクひとりなんです。
それにしてもみんな銀のアクセサリーをして温泉で変色して。
ボクらに文句言われて。
まあ自分もうっかりそれをやってダメにした銀のがいくつもあるんですけど」
「あのさ。これは適当マシーンじゃないんだけどさ。
 歯ブラシと歯磨き粉でがんばって磨いたら復活するよ」
「え?ほんとうですか」
「うん。表面だけが硫黄と化学反応して黒くなってるだけだから。
 歯磨き粉には研磨剤が入ってるから汚れ落ちるよ。
 オレも昔失敗してなんとなくそこに歯ブラシがあったから経験済み。
 ピカールとかでもいいんだけどあれはちょっと強いから
 銀自体に傷がつくから歯磨き粉の方がオレはいいと想っている」
主人は「早速試してみる」と言い
サービスだとフルーツなどを持って来た。

夕食がすんだあと繁華街まで歩いて行った。
目的は「変わらない場所」とその象徴としての「スマートボール」だ。
最後にこの小さな温泉町を訪れたのは1990年代前半。
ほとんどの場所が変わっていた。情緒のカケラはなかった。
そんな風情がある裏通りもあったけれどヒトも少なく
「都合によりしばらく閉店します」という張り紙の店もあった。
カオルの法則。
「都合によりしばらく閉店の店は2度と開店しない」

「すいません。この辺りにスマートボールがあったと想うんですけど」
「もうだいぶ前につぶれたよ。今時はやるヒトがいないからね」
「この町にないですか?」
「確か1軒だけあったけどここずーっとまっすぐで甘味所の裏」
店はあったが「都合により〜」の張り紙があった。

スマートボールとは「旧式のパチンコとピーンボルの中間」みたいなゲーム。
少し傾斜した盤面には釘が打ってある。
ピーンボールのようにバネ仕掛けのレバーを弾いて
大きなビー玉のような白い球を打ち出す。
穴があいていてそこに入ると球が盤面のガラスの上から球がざらざらと出て来る。
穴の位置の難易度によって球の数がちがう。5。10。15。20。
入っても5発しか戻って来ない穴だけれど
そこに入ると20個でてくるチューリップが開くのもある。
コーラを飲みながらタバコを吸いながら
球が釘にキンコロリンという音を聞きながら
「どうでもいい時間」を過ごす。
200円で50個。
でもたいていはおまけをしてくれる。

宿に戻り風呂に入り眠った。
翌朝8時に朝食を食べておおきな美術館に行った。
静かだった。
「ステンドグラスをやってみたいな」と想った。
見たかった画家の絵はなかったけれど
見たかった画家の別の絵がかわりにあった。

小さな神社に行った。
100円のおみくじを10円で買った。
「大吉」だった。
中に「金色のカエル」が入っていて嬉しくて財布に入れた。

たくさん歩いて疲れたので
夕食を食べてぐっすり眠った。

次の日は江ノ島に行った。
スマートボールをやりに行った。
楽しく遊んだけれど「禁煙」になっていた。
店のおばさんも「神奈川県のお偉いさんはバカだよ。
 公共の場所は禁煙とか言っちゃってさ。こんな小さな店で」
2軒あったから両方で遊んだ。
もちろん両方とも禁煙だった。
これから江ノ島はシーズンだからしばらくは「閉店」はないだろうと想っている。

ヨコハマにもちょっとよった。
「開港150周年パーティー」のあたりに。
保健所は野良猫退治に躍起になり
浮浪者達は寿町に追いやられ
「表面的な部分」は小綺麗にデコレーションされていた。
しかし。
「海」は汚さが加速していた。
どうして肝心の海を綺麗にしないのだろう?
また汚さない努力をしないのだろう?
エコロジーに取り組んでいるのに
どうしてどこもエアコンが強烈なんだろう?
センスが悪すぎる。

スマートボールをくすねてレインのオミヤゲにした。
ころころ転がして遊んでいた。
黒猫がささやかに白い球で遊んでいる景色は素敵だった。

田舎がのんびりしているんじゃない。
都会が忙しすぎるんだ。

おしまい。
 


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